月の記録 第35話


アリエスの離宮。
その主であるマリアンヌの前に、三人の騎士が立っていた。
神聖ブリタニア帝国ナイト・オブ・ラウンズ。
ナイトオブスリー ジノ・ヴァインベルグ
ナイトオブシックス アーニャ・アールストレイム
ナイトオブセブン 枢木スザク

帝国最強を誇る、皇帝の12騎士。
そのうちの3人を借り受けた第3皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアは、騎士の顔でそこに立っていた。帝国最強を誇った女騎士、元ナイトオブシックス、閃光のマリアンヌ。騎士から皇妃となり、戦いとは無縁の場で二人の子を産み育てたとは到底思えない若さと美しさ、そして現役の騎士たちですら気圧されるほどの力強さに満ちていた。

「よくお聞きなさい。この短い間に、我が子ルルーシュは3度命を狙われました。どの襲撃も防ぐ事が出来ず、運よく生き伸びたという状況です。これは、我が神聖ブリタニア帝国に対する宣戦布告と言っていいでしょう」

テロを未然に防ぐ事が出来ず、1回目2回目共に死傷者を出した。
3回目は魔女の助言があったから、先手を打ち回避できただけ。60を超える襲撃者と、銃火器相手に死傷者が出ずに済んだのは、同時に相手をせずに済んだからだ。挟撃が成功していれば、ルルーシュの命が失われたかもしれない。
魔女がいなければ成功していた襲撃。
軍が警戒し、ラウンズが二人も同行したにも関わらず防げなかった。
試合に勝って勝負に負けたと言っても過言ではない。

「3度の襲撃を許したなどあってはならないことです。スリー、シックス、セブンに命じます。これより私の指揮下に入りなさい。襲撃の首謀者を捕獲します」
「「「イエス・ユアハイネス」」」

三人はアリエスに部屋を与えられた。スザクは以前使用していた部屋がそのまま残されていたため、久しぶりに実家の自室に戻ったような安堵をおぼえ、思った以上に疲労していたのか、全身から力が抜けた。
先日の襲撃後、皇宮に戻るとジノとスザクはアリエスに詰めるよう命じられた。内通者がいる以上多くは語れないため、今回の襲撃に絡んだ事だとだけ聞いていた。
二人はすぐさま自室に戻ると、荷物をまとめてアリエスへとやってきた。 そして、既に来ていたアーニャと共にマリアンヌから先ほどの命令を受けたのだ。
シャワーを浴びる暇も無かったなと、浴室に入り熱いシャワーを浴びる。
今日は戻って来たばかりという事もあって、マリアンヌの作戦自体は明日行われるらしい。そのため、この後の時間はアリエス内で自由にするようにいわれている。スザクはともかく、ジノとアーニャには慣れない離宮。警備内容の確認と、離宮内外の把握に努めることになる。だからといって、スザクも部屋でだらけているつもりはない。内通者がいる以上安心など出来ない。まずは館の中を見て歩くべきだ。自分がいない間に変わったこともあるだろうから。
聞きなれた振動音が聞こえ、シャワーを止めると脱衣室へ移動した。予想通り携帯が震えている。慌てて開くと相手の名前はジノ。何かあったのかと眉を寄せた後、水が滴る髪をかきあげ電話に出た。

「もしもし?」
『スザク!すぐに出られるか?』
「5分ほど時間を貰えるなら」
『じゃあ、部屋の外で待っているからな』

そう言って一方的に切られる。
一体何なんだと思いながらも、内通者に関する話かもしれないと考え直し、体に残っている泡を洗い流すためシャワー室に戻った。

「ああ、シャワーを浴びていたのか」
「それより、何が?」

部屋の扉を開けるとジノがいて、髪を拭きながら出てきたスザクを見てすまないなと笑った。ジノはまだ見回りをしていたのか、ラウンズの制服のままだった。

「ルルーシュ様はどこか教えてもらおうと思ってね」
「・・・教えるとでも?」

ルルーシュをよこしまな目で見ている男に、彼の寝室の場所を?冗談だろうとスザクは睨みつけたが、ジノは堂々とその視線を受け止めた。

「警備のためだから、教えてもらわないと困る」

それを言われてしまえば、スザクも強くは出られない。
狙われているのがルルーシュである以上、彼のいる場所は全員が把握するべきだ。

「僕じゃなくても、他の者に教えてもらえばいいのでは?」
「そこにいたメイドに聞いたが、スザクの許可がなければ話せないというんだ。ラウンズの私に向かってだぞ?」

ここの従者は少し変わっているな。とジノは苦笑いをした。
ラウンズは皇帝直属の騎士。
その騎士が求めた情報でも開示しない。
それはそうだろう、皇妃の住まいである離宮なのだからとスザクは思うのだが、ジノは納得いかないようだった。おそらくスザクの許可、という所が気に入らないのだろう。

「なら、アーニャも呼んで、建物内を案内しよう」

乱暴に髪を拭きながら、スザクは携帯を操作し、アーニャにコールした。 数分も置かずにアーニャもやってきたため、スザクは二人を連れてアリエスの中を案内した。既に時間は夜遅いため、多くの従者は自室で休んでいて館内はしんと静まり返っていた。
普段であれば廊下の電気も消灯されているのだが、3度の襲撃があったことをうけ、常に明るくしておく事になったという。まずは1階からと歩き出した時、いつもルルーシュの世話をしているメイドがいた。

「スザク様、どうかされましたか?」

彼女もルルーシュに同行していた一人だ。疲れているはずなのに、やはりどこか落ち着かないのか屋敷の中を見て回っていたようだった。

「ジノとアーニャに館の案内を頼まれまして」
「左様でございましたか。それでは、私も同行いたしましょう。本日から、殆どの場所を施錠しています。私はマスターキーを預かっていますので」

そういえば、そんな話をしていた。
彼女はメイド長という立場から、マスターキーを預かる一人だった。
マスターキーを持っているのは、護衛隊長のジェレミアと、館の主マリアンヌの三人だけだと聞いている。

「そうですね、よろしくお願いします」

メイドは一礼すると三人の後ろにつき従った。

34話
36話